再肥育の必要性。

黒毛和牛の経産を1か月くらい枝で枯らした、
「寝かし黒毛母牛」をスタートしてから2年近くなりますが、
ここ1年くらい、ずっと考えてることがありました。

どのような黒毛の経産牛を寝かせるのか。
その牛選びに関して、兵庫系の血統が強いもの、
脂質がクリームがかっていて、しっとりとした質の良いもの。
そして、年齢をくくることで、良い牛が選択外になってしまうこともあるので、
あえて、年齢の制限はつけないように。

それに加えて、自分の中のルールに、
『きちんと3カ月~6カ月程度は再肥育をして、お肉として仕上げたもの』
というのがありました。

『ちゃんと再肥育をした経産は美味しい』

というのが、周りの先輩方から自分に叩き込まれていた教えで、
自分の中で当たり前の考えになっていました。

でも、ここ1年くらい、経産牛の再肥育は
重量を乗せるためには間違いなく意味があることだけど、
お肉の味を乗せるためには本当に必要なのだろうか、と考えるようになりました。

その理由として、短角牛の経産を秋に放牧地から山下げした翌日にと畜して
送ってもらったお肉がすごい美味しくて感動した、という話を南山さんから聞いたこと。
再肥育はあまり好きじゃないという一文をサカエヤさんのブログで見たこと。
兵庫の田中一馬さんが、毎年放牧地から戻した但馬牛の経産をそのまま、
お肉にされていて、それがとても美味しいと話を聞いたこと。

そういう話を重ねて聞いてきて、そのような牛肉が美味しい理由を
自分なりに考えたり、ご本人に会えば直接疑問を投げかけてみたり、
してきました。

生産者さんたちに話を聞くと、繁殖牛たちを夏に山にあげると、
結構太って帰ってくる牛もいるらしいから、
(若い1年目の子は大抵負けて、ボロボロになって帰ってくるらしいですが。。)
本来草食動物である牛は、草でも十分、太るんだなぁって考えてみたり。
そういえば、田村牧場でも去年、放牧地の草が良すぎて、
繁殖牛たちが太り過ぎて、種がつきにくくなって、
繁殖成績が下がって困ったっていう話をしてたなぁって思いだしたり。

絶対的な答えには出会っていないですが、自分なりに考えたのは、
もしかしたら、粗飼料をずっとメインで食べてきた繁殖牛にとっては
再肥育のための数カ月だけ、濃厚飼料をたっぷりと食べさせられることは
今まで数年間の自分の人生で食べてきたゴハンとまったく違うもので
それはストレスになったりするんだろうか、とか。

でも、自分の立ち位置からすれば、再肥育は必要なときもあると思うので、
再肥育を完全に否定をするつもりはないけど、
再肥育していない経産牛に向き合ってみたいなぁという
興味はこの一年くらい、ずっと持っていました。

そして、やっと今回その機会に恵まれました。

たまたま、牛を探していたら、雫石の中屋敷さんが、
「今回、4月に産んだばっかりで再肥育していない経産を
 2頭、と畜するよ。」
とのこと。

いつもは再肥育してから出荷する中屋敷さんが
今回は再肥育せずに出荷しようと思った理由は、
体形的にも牛が良くて、繁殖なのに肉牛みたいだったこと。
また、血統的にも繁殖牛としての優秀さより、肉になったときに
美味しいであろう兵庫系の福安照であること。
の2点から、今回の2頭を選んだんだとのこと。

もちろん、ほぼ牧草・乾草メインで生きてきていて、
濃厚飼料は分娩前にちょっと多めにあげたくらい。

写真 3 - コピー (2)

向かって左の大きい子が、しきぶちゃん。
22年生まれの6歳、福安照ー平茂勝ー美津福。

右の子が、なぎさちゃん。
21年生まれの7歳、福安照ー平茂勝ー北国7の8。

2頭とも、1歳になってからは毎年、
夏になると、山にあげられて生きてきた子たちです。
去年の11月に、八幡平の離農農家さんから中屋敷さんが引き取って
半年くらい飼っていました。
(その離農農家さんの自家産。)

その子たちが、枝肉になって、今週月曜に芝浦にやってきました。

しきぶちゃん。358㎏
体型
写真 4

ロース芯
写真 1

バラ
写真 2

モモ
写真

脂質
写真 3

なぎさちゃん。318㎏
体型
写真 2 (1)

ロース芯
写真 4

バラ
写真 5

モモ
写真 2

脂質
写真 3 (1)
美味しそう。

後ろにいる仙台牛と比べると、やっぱり草で生きてきただけ、
脂の色がクリーム色なのがよく分かります。
写真 5

今回、この半年でどんどんご縁が深くなっていった熊本が
こんなことになって、すごく胸を痛めていました。

自分になにかできることはないだろうかってずっと考えていたのですが、
やっぱり、今の自分が持ち味を生かしてできることは、
牛やお肉しかないだろうと思っていて。

熊本が元気になりだしたときに販売に携わるのも一つだけど、
その前に今できることは?!と考えて、このなぎさちゃんのお肉を
熊本に1頭分送ることにしました。
炊き出しや、営業を再開した飲食店さんたちに使って頂ければ、と思います。

同じく、熊本にご縁のある中屋敷さん、マルヨシ商事の平井さんにも
協力して頂けることになって、3者からお送りします。
こういう時に生産者さん、お肉屋さんが想いを同じくして、
長い説明なしに短い言葉だけで、協力してくれることが
ありがたいことだなぁと思います。
考えてみれば、なぎさちゃん自身は2歳のときに
岩手で震災にあっているわけで、その子が
このような形で、熊本の震災の復興のために、
少しでもお役に立てるのであれば嬉しいと勝手ながら思います。

そして、しきぶちゃんはしばらく寝かせてから、
いつものようにパーツで飲食店さんにお届けします。
今回の子たちは自分にとっても今後の方向性を決める
大事な2頭になる気がしています。

もしご興味ある方いらっしゃいましたら、ご連絡ください。