肉の仙人、松澤さんのこと。

4年越しの想いが繋がって。
つい先日、とても尊敬する方にお会いできました。
元、(株)松金代表の松澤秀蔵さんです。

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松澤さんのことを知ったのは、4年前。
これまた尊敬するお肉屋さんから、
「荻澤さん、こんなちゃんとしたことを仰ってる方がいて、
 その方は短角の仕事にも携わっていたみたいだよ。」
って、ある講演資料を送っていただいたことがきっかけでした。

『消費者に喜ばれる牛肉生産ーおいしい牛肉をどう消費者にとどけるかー』
と題された、その講演で話されていることが
至極まっとうな、納得できることばかりで、
「うん、うん、そう、そう!」
って一人思いっきり頷きながら読んでいたことを思い出します。

自分からすれば至極まっとうなことなんだけど、
短角を広めようとしていく活動のときに、
なぜかみんなそこに重きを置いてるように思えなかった点。
それが、2002年の講演資料だったので、
なぜ、この考え方が今に繋がっていない現状があるんだろう?
っていうのが、その時はとても気になったところでした。

その当時、いろんな方にその講演資料を送ったりして、
県庁の方など何人かに松澤さんのことを聞いてみたのですが、
直接繋がることはないまま、自分の中でも少しずつ薄れていきました。

そうしたら、ふと先日。
ホロホロ鳥の石黒さんがFBで「肉の仙人がいる」っていう話をUPされていて、
「凄い人がいるもんだなぁ」ってぼんやり読んでいたら、
そのコメント欄で、お名前が出ていて「あっっっ!この名前!!!」
って、その時の講演資料を引っ張りだしてきたら、やっぱりご本人。

いや、自分なんかが恐れ多いと思いながらも、勢いで
そのコメントをされていた料理家の冬木さんにご連絡させて頂いたら
(よく考えたら、たった一回しか会ったことないのに・・・)
「このタイミングは逃がしません」と、すぐに松澤さんに連絡してくださり、
スケジュール決めて、とても素早く今回の機会を作ってくださいました。
なんて有難すぎる。。。

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せっかくお会いできるなら、とこちらの著書を入手して
読み始めたのですが、読めば読むほど凄い方で
お会いするのが恐れ多くなってきました。
いやいや勢いで連絡しちゃったけど、我は身の程知らずなんじゃ・・・と。

でも。
実際に会った御年92歳の松澤さんはとっても優しい方でした。
なんか、あか牛の井さんや、きっかけの講演資料を送ってくれた、
京都中勢以の加藤社長に通じるところがあります。

そういえば、加藤社長に初めて会ったときも嬉しすぎて、
ブログに書いてました。

最近会った好きな方。

改めて、私は出会いに恵まれています。有難い。

松澤さんはいろんな話をしてくださって、
結局途切れることなく、4時間半。
肉屋時代の話や、幼少期の頃のお話、終戦の頃の話。
そして、もちろん短角牛に携わられた時のこと。

本の中で読んだ話と重なる部分に関しても
内容がまったくブレることなく明確です。
岩手の短角牛に関わられたのは、20年前のことで、
自分が知らない時期の動きや取り組みを知ることはとても貴重でした。

途中からだんだん、これは私だけじゃとてももったいなくて、
もっと多くの人たちと共有して、何かを感じた一人でも多くの人が
この遺伝子を各々なりの形で引き継いでいかないといけないんじゃないか、
って思い始めました。

なので、いつか産地にご案内できる日を楽しみにしつつ、
今回、印象に残った話をいくつか書いておきます。

まず印象的だったのは、戦後、飛び込みでお肉を買いに来た、
まだ18歳くらいの松澤青年を信用して、公定価格程度の単価で
お肉を販売してくれた鹿沼の小林さん。
(闇市で、公定価格の8~10倍くらいの単価で売っているのが当たり前の頃。)
それを松澤さんも
「そうしないと、そんな価格で売ってくれた小林さんに筋が通らない」
と、公定価格で販売した。
そうしたら、闇売買を取り締まる警察を恐れる必要もないし、
なにより、行列をつくってお客さんたちが買いに来てくれた。
そのおかげで、売れ残ることなく新鮮な良い状態でお肉を販売することができたし、
結果的に、立派なおうちを建てることもできた、と。
すべて小林さんのおかげです、と。

ここに、なんかシンプルに商売の神髄が表れている気がします。

本の中では
「よい生産者が成り立ち、それを売る商人が成り立ち、
それを買った人がよい買物をしたと満足できる、
そんな流通機構をつくるのも商人の大切な務め」
という表現もありました。
当たり前のようで、意外とできていないことも多い気がします。

また、何度もおっしゃっていたのが、
「WHOが牛肉の発がん性を何度か発表しているけど、
自分たちが販売するもので、お客様たちの健康を損ねるわけにいかない」
と、ずっと発がん性のない商品づくりを追求してこられた点。
ご自身の商売に対しての責任感を強く感じました。
「美味しくて、楽しくて、健康が守れる」の3つが大事とのこと。

短角に関しては、いろいろな課題をみつけられていました。
そんな中、3-5年かけて、生産・加工・流通まで通して
改善されようとご尽力してくださっていました。
「喜ばれるお肉をつくれば売れるのは分かっていたから、
 販売先に関しては心配していなかったです」
ってニコニコされていました。さすがです。

一例をいえば、岩泉に熟成用の枝庫をつくられようとしていたそうです。
国産のフィルターではカビの菌糸が、
縦だと通らないけど、横になると通ってしまうものしかないから、
それを通さないドイツ産のフィルターを探して、それを使う形で、
ちゃんと実用性のある形で図面まで引いて、お渡しされたそうです。

そして、生産者さんたちにお肉の仕上がりを知ってもらうことにも
ご尽力されていました。
こちらの一例に関しては、お会いした時にも、
優しい生産者のお母さんの話をお聞きしたけど、
その後、松澤さんからいただいたメールの文章を引用させていただきます。

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生産コストが、利益を食いつぶしている状態を改善してから、
その効果を皆さんに納得してもらうために、屠殺した翌日に、
屠場に集って戴き、枝肉を見て戴きました。
その時に、ストレスがあったけれど、ドリップが出無い肉になった牛が1頭在り、
皆さんによく見て戴きましたが、その差を感じ取ることが出来る方は、居ませんでした。
その牛を育てた方に、飼育状況を話して戴きました。
その牛は、他の牛と共に行動できず、飼料をやると、
牛は一斉に食べに来るけれど、その牛は、食べに来ず、
他の牛がえさ箱を放れると食べに来るのですが、
えさ箱は、からになっていたので、その牛だけには別にえさをやり、
屠殺の前日には、1頭だけ別の牛舎で過ごさせてやりました。とのことでした。

この心遣いが、市場で、価格の大きな下落を防いでくれる事をお話ししたことがありました。
牛にも様々な個性があります。
その個性を理解した飼育が、よい肉を造る必要条件だと思います。
こんなことは本には書かれていないのではと思いますが、
生産者の方達には、引き継いで戴きたい大切な心遣いだと思っています。
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また、その当時の活動として、今回ご紹介いただいた冬木さんや
松澤さんが主体となって、このような冊子をつくっていたそうです。
いただいたものを隅々まで読ませていただいて、
途切らせることなく、次の世代に堂々とバトンを渡せるようにしないといけない、
そのために自分の立場にできることはなんだろうって今、考えています。

最後の別れ際、
「肉屋やってて、なかなか楽しかったですよ」
って笑っておっしゃいました。

肉の仙人は、好奇心と行動力の人でした。
早くコロナが落ち着いて、産地をご案内できる日を楽しみにしています。