純血「竹の谷蔓牛」入荷しました。
「竹の谷蔓」は黒毛和種の基礎となる血統の元祖です。
今から約200年前の1830年に、最古の蔓牛として
岡山・新見で誕生しました。
そんな「竹の谷蔓」は和牛に携わるものにとって
どこか憧れの存在です。
おそらく、生産者さんにとっても、
流通・販売に携わる立場としても。
もし、その存在を知っている料理人さんがいれば、
同じ気持ちを持たれるかもしれません。
登記上は「黒毛和牛」になるのですが、
現在のニーズに合わせた改良がされていないので、
サシが入りずらく、大きくもなりずらい、昔ながらの和牛です。
そのため、今の経済効率優先の価値観においては、
評価されず、どんどん飼う方が減っていて、
現在、純血は全国で50頭もいないくらい、とのこと。
日本全国でそんな頭数しかいないので、
私も以前からその名は知っていたものの、幻の存在で、
自分が向き合わせていただくことになる日がくるとは
まったく想像していませんでした。
それが2年くらい前にふとご縁をいただき、
年間2頭程度のゆっくりペースで扱わせてもらっていて
今回が4頭目の子になります。
2年前に向き合わせてもらうときに改めて
憧れの竹の谷蔓のことを勉強し直しました。
こちらの内容の中で自分が大事に感じるポイントを
再度、掲載しておきます。
<①地域産業との繋がり>
牛は時代の産物であるとともに、また風土の産物である。
この近隣には広大な花崗岩地帯が広がっている。
その影響で、この地方では製鉄業が重要産業であった。
一見、製鉄と牛は関係ないように思われるが、
当時の製鉄には大量の物資運搬が必要だった。
樹木を伐採して運び、できた木炭も運び、できた製品の鉄も流通現場まで運ぶ。
その手段として、山間部の山道であるから、
馬あるいは牛の背以外に大量運搬の手段がなかった。
このために、中国山地の各所で行われた製鉄地帯は、
同時に牛や馬の産地でもあったのである。
<②そもそも「蔓」とは>
中国地方の主要産地では、つとに和牛の優良形質の
維持、改良、固定につとめてきたが、そのうち
特に優れた良い系統を「蔓」と称してこれを珍重するに至った。
「蔓」という言葉は植物の蔓に由来するもので、
1本の蔓に同じ種類の実が多数に付くのと同様、
牛の場合も特性のよく似た多数のすぐれた牛が、
血統を辿ってみると同じ先祖につながっているという現象を指し、
このような同一系統の牛群を「つる牛」という。
<③蔓牛に共通する美点>
①体質強健で、悪癖なく、性質よろしきこと(健康体で良い性格)
②繁殖力旺盛で、雌は連産すること(繁殖成績よし)
③長命系、連産系に属すること(長生き)
<④竹の谷蔓の特徴・名声の理由>
竹の谷蔓牛は、蔓牛の美点を踏まえたうえで、このほかに、
体格が大きく、体積が豊かで、雌の乳量が多く、仔牛の発育が良好であること、
肩がよろしく、胸が広く、背線平直で、腰が強く、後躯の発育が特に良好であること、
毛色は別として、皮膚、被毛、角、蹄などの資質が良好であること。
が特徴として挙げられている。
また、竹の谷蔓牛はきわめて長命連産性で
23歳まで生きて、19頭の仔牛を産んだ牛もいたといい伝えられていたり、
老齢になって、全身白毛となり、失明するまで生きていた牛もいたという。
<⑤竹の谷の現状・著者の想い>
竹の谷の名声は和牛関係者のよく知るところであるが、
その発生地竹の谷は分県地図にも載せられていない無人の集落である。
竹の谷蔓牛の流れを汲む地元の系統の牛も残り少なくなっているから、
放置すれば竹の谷も、竹の谷蔓牛も伝説的存在になることは明らか。
日本最古の蔓牛発祥の地として、ここになんらかのモニュメントを
残しておくべきではなかろうか。
かつてはそんな名声を誇った竹の谷も、時代の変化とともに
今では50頭を切るまでになってしまったのですが、
その血をなんとか途絶えさせずに残そうとされている方々が
岡山を中心に、全国各地それぞれで活動されています。
そんな取り組みをされている一牧場である、新見市の、
いろりカンパニーさんから今回の子もやってきました。
牧場と竹の谷蔓牛が紹介されているYouTubeがこちらです。
<武松981《井武輝×竹槇5×谷蔓》/34.5カ月齢/去勢>
実はこの父の種牛である「井武輝」のお肉を
最初に北海道で食べさせてもらったのが、
今回のご縁が動き出したきっかけでした。
そのときにいただいた「井武輝」のお肉は雄牛のイメージに反して
思ったより歯応えもなく心地よい噛み心地だった上に、
力強い赤身の味わいがあって、とても好みの肉でした。
その「井武輝」の血筋の流れの子に向き合わせてもらうのは
初めてなので、今回はとても楽しみにしていました。
実際の内容はこちらです。
枝重量470.4㎏・A2(BMS3点)でした。
A2というのが竹の谷らしくて、ひとまずホッとしつつ。
ロース芯。
モモ。
切開面。
枝肉全体。
ロース芯も張りがあり、無駄がない枝肉に仕上がっていて
1頭目の竹の谷蔓の経産牛の格付け「A1」に驚いたことを
ふと思い出しました。
赤身の色合いもしっかりで脂質も良いので
その味わいにも期待しています。
勝手にいろいろなイメージを持っているものの、
自分たちはまだまだ竹の谷を掴めていないので、
今回もしっかりこの1頭から勉強させてもらおうと思います。
そして、和牛業界の情勢が目まぐるしく変わっていく中、
全国の産地を訪ねさせてもらっていますが、
岩手の短角牛、熊本・高知のあか牛、山口の無角和牛、
それぞれの地域に根差した個性豊かな畜産の形が
メインストリームではなくても、一側面として
より大事になる時代がジワジワとやってきているように感じます。
(その流通の苦労も十分わかってるうえで…笑)
岡山県のこの地で生まれた竹の谷蔓牛もそういった存在として
また次の時代に引き継がれていくことを願っています。
私たちが今後、この血筋を守っていくことに
少しでも関わらせてもらえるのであれば、憧れている場合ではなく、
ちゃんとモテモテのお肉にしてあげるために
現実的になにができるか考えていくべきなのだろうな、と。
「憧れるのをやめましょう」笑
こちらはもう少し枝で枯らして、11月頭くらいに加工予定です。